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中国、トリウム溶融塩炉と進行波炉開発に照準
2011/03/16(水) 16:43
世界最大の原子力発電国の米国、その米国を15年後には追い抜くことが確実の中国。2つの国で、原子力の持つ新たな可能性に照準を定めたユニークな原子炉の開発が動き出した。
中国の最高レベルの科学技術学術機関であると同時に自然科学・ハイテク総合研究センターである中国科学院はこのほど、トリウム溶融塩炉の開発を正式にスタートした。トリウム溶融塩炉は、核燃料物質と冷却材が溶融塩の形で一体になったトリウムサイクルを用いた熱中性子炉で、増殖を行う原子炉だ。
溶融塩炉は、発電所内で核分裂生成物を連続して除去する再処理方式を採用することができ、核燃料サイクル全体に投入される核燃料の総量を低下させることができるといった特徴を持つ。米国のオークリッジ国立研究所で1960年代に研究が進められたが、材料や部品、プラントの維持、廃棄物管理等で技術的に困難な問題があったため計画は中止された。
中国科学院は1月25日、2011年の活動会議にあわせて開いた「創新2020」の記者会見で、戦略的先導科学技術特別プロジェクトの一環としてトリウム溶融塩炉原子力システム(Thorium Molten Salt Reactor::TMSR)の研究を開始することを明らかにした。戦略的先導科学技術特別プロジェクトは、中国科学院が2050年までを視野に入れてとりまとめた科学技術発展ロードマップに基づいて、長期的な視点から国として発展させる必要がある重要な科学技術問題にねらいをつけたものである。国務院常務会議で2010年3月、「創新2020」計画の審議・承認が行われた際に同プロジェクトの設立が認められている。
中国科学院は、2年間に及ぶ根回しや調査研究、討論を経て、2010年9月25日の外部の専門家による検討・評議を踏まえ、同12月に予算の審査が通ったことから2011年1月11日に実施を正式に承認した。
中国科学院はTMSRの開発を4段階で進めるとしている。まず2015年までは問題発見期間として、2MWの実験炉を建設しゼロ出力臨界を達成した後、2年後に2MWを達成する。次の5年間では、モジュール化炉の研究開発を開始するとともに、10MWの実験炉の臨界を達成する。
2020年~30年は実証応用段階と位置付けられており、電気出力100MWの実証炉を建設し臨界を達成する。そして2040年までに商業利用段階に持っていくという計画だ。TMSRの研究開発は、中国科学院の上海応用物理研究所が担当する。
中国では、もう1つユニークな原子炉の開発がスタートしている。国家能源報が昨年9月17日に報じたところによると、国家エネルギー(能源)局電力司核電処(部)は「進行波炉辦公室」を設立し進行波炉技術の研究開発について関係者の意見をまとめたうえで、原子力企業の専門家を選任し準備作業をスタートした。
進行波炉(Traveling Wave Reactor)は、1958年に初めて提唱された増殖炉の一種で、理論的には燃料を交換しないで50~100年間の運転が可能という。また、軽水炉から取りだされた使用済み燃料や劣化ウラン、トリウム等を燃料として利用することができる。
福建省のアモイ大学エネルギー研究院の李寧院長は2009年10月30日、中国南方電網と中国国電集団、能源雑誌社が共催したフォーラムの場で、進行波炉の開発の意義について強調した。マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏が出資するテラパワー社も進行波炉の開発構想を明らかにしている。
一方、米国では、オバマ政権が2月14日に議会に提出した2012会計年度(2011年10月~12年9月)予算教書の中で、モジュール方式の小型炉(Small Modular Reactors:SMR)に高い関心が示された。
エネルギーを所管するエネルギー省(DOE)は、軽水炉技術をベースとし
た成熟したSMRの導入を加速すことに加えて、革新的な技術とコンセプトに基づいたSMRの理解と実証を進めるための研究開発と実証を行うため、それぞれ6700万ドルと2870万ドルを要求した。
DOEは、軽水炉技術をベースとしたSMRについては10年内には商業的に導入が可能と予測している。2012年度では、SMRの導入を加速するため、産業界と協力して軽水炉ベースのSMRの認証と許認可活動を支援することになっている。DOEは、標準化されたSMRの開発によって世界市場における米国企業の存在感が高まると期待している。
高速炉や高温ガス炉をベースとした設計のSMRについては、研究所や大学、産業界での研究開発を支援するとともに、中長期的な利用を見据えて先進的なSMRの開発を支援する方針も示している。
SMRは、資本コストが小さいため、資本投資を抑えることができる。また、モジュール方式のコンポーネントを採用し工場での製造が可能なため、建設コストを削減できるだけでなく建設期間も短縮できるといった利点がある。さらに、エネルギー需要が増加した場合には、モジュールの方式で対応できるという柔軟性も持っている。オバマ政権がSMRに特に高い関心を示しているのは、核不拡散の面からも有利なためだ。
新型炉ではないが、DOEは現行の60年よりさらに長い原子力発電所の80年間運転を見据えた軽水炉の持続可能性プログラムに対して2140万ドルを要求した。材料の老朽化と劣化、先進的な軽水炉燃料、計装制御、安全裕度特性、効率改善の5分野で研究開発を行うとしている。建設コストの高騰から原子力発電所の新設が難しくなってきている現状をにらんでいるという側面もある。
いずれにしても、中国と米国で原子力発電の新たな可能性を模索した動きが浮上してきたことは、両国が原子力技術において将来、主導権を握りたいという強い意思の表れであろう。
そうしたなかで、米国ウェスチングハウス社のAP1000型炉の国産化に加え、同型炉をベースにした中国が知的財産権を持つ大型PWR「CAP1400」(140万kW級)と「CAP1700」(170万kW級)の開発を担当している国家核電技術公司は2月、北京市昌平区政府との間で、同区に「国家核電科研創新基地」等を共同で建設するなどとした戦略協力枠組み取決めに調印した。
同基地を国家級の研究開発センターだけでなく世界的に見ても一流の先進原子力発電技術研究基地にするとともに、国の支援を得て原子力発電産業に従事するハイレベル人材の基地としても発展させる考えだ。
今年スタートした第12次5ヵ年期(~2015年)では創新(イノベーション)が1つのテーマになっている。これまで技術の輸入に頼ってきた中国は、原子力分野でも創新を目指している。
(執筆者:窪田秀雄 日本テピア・テピア総合研究所副所長 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
シャーマン
http://blogs.yahoo.co.jp/sharmanqueen/19736865.html
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